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2017年7月19日水曜日

全休アルプス 槍ヶ岳

こんばんは。同じく文学部所属ながら先ほどのお二方とは違って、中山間地域におけるソーシャルキャピタルの構築について学んでいます人文地理学徒の大塚です。さて全休アルプス企画者である僕が無理やり文学的に行ってみましょう。

第8章暴風雨にもまれて-マグマ浸水-
泊地双六小屋テント場では前日より暴風雨にもまれつつ12時間。
喉の渇きのためだろう、僕が目覚めたのは朝の4時前だった。テントの中で目覚めると、いつも別の体に別の魂を無理やり詰め込まれてしまったような感じがする。やっとの思いで湿ったマットから起き上がり、コッヘルを取り出す。本当なら熱いコーヒーを流しこんで、熱いお湯でひげをそりたいところだが、スキムミルクを流し込んだフルグラしかなかった。

テントのベンチレーションからは白い空しか見えない。目を凝らすと雨粒がけだるそうに吹き付けている。音がなくなっているようだ。白く厚い何かが僕らを押しつぶす。テントを片付けるまでにざっと15分ばかりかかった。そして重くなったテントをマグマが背負い、僕は腕を組み、槍を隠す厚い雲が姿を変え、東のほうへ流れるのをじっと見ていた。

スキムミルクおじさんズがこちらに向かってくる。彼らはにこにこしながら手を挙げている。チーズクラッカーが口の中に残っている。慌てて喉の奥に流し込む。女は遅れて走ってくる。女の名前を思い出そうとしたが、思い出せない。鼻水を垂らしている。これからは鼻水と呼ぶことにしよう。おじさんズは僕らを心配しつつ激励してくれた。彼らに別れを告げる。わかるかい?さようならと。
夢のある標識

第9章西鎌尾根を行く
マグマと鼻水を連れて緩やかな稜線を行く。相変わらず厚い雲はガスを垂れ流し視界を狭くする。次第に稜線は険しい岩稜へと変わっていく。槍ヶ岳はもうすぐそこなのかもしれない。電話のベルが鳴る。鼻水に電話がかかってきている。そんなことは気にもせず、登っていく。白いマル、矢印を頼りに岩稜を行く。鎖場を通過し、千丈沢乗越に到着。ここから僕らは本領発揮した。CT0.37で槍ヶ岳山荘へ。
「ラストォォォ」
「がんばれー」
「ヲラァ!!!!」
槍の穂先は見えている。
後ろを振り返ると鼻水がこちらを見ている。鼻水がでている。

雪渓の先は

好転の兆し

ふみ跡も多い

一瞬穂先が見える

さて

スポ根中

ザックを山荘にデポり穂先へ向かう。鎖、梯子の連続。ザックを置いて安心な僕らはすいすいと登る。穂先は意外と広かった。ガスは取れていて白い空は相変わらずだが、視界はよくなっている。何もかもが見える。つまり、晴れていたのだ。前日から荒天に苛まれていたのにもかかわらず、穂先に到着すると天気は好転した。穂先は僕らを待っていたのかもしれない。ジェイもきっとそういいながらフライドポテトを上げてくれるだろう。
ガスはなくなる

槍を食べる

槍は傾く

なぜ角刈りなのか

説明を追加



第10章 上高地へと下る
僕らのこの日の目的地は上高地の手前、徳澤園であった。最後のテント泊をして翌日上高地へと下る予定であった。しかし、僕らのテントは濡れている。寝袋でさえ湿っている。帰るしかない上高地まで。最終日にして歩行距離25㎞の行程である。CTを巻き続けながら歩き続ける。東鎌尾根の危険な岩場も、槍沢の大雪渓もスピードを緩めず下りていく。



気温は徐々に上がっていく。塩分が足りなくなる。横尾山荘を過ぎると林道歩きになる。放心状態で歩く。先頭の僕は仏に、鼻水は邪心に満ち溢れ文句を言いながら、マグマは欲望に打ちひしがれながら。やっとのことで徳澤園にたどり着く。本来の宿泊地である。ソフトクリームが有名らしい。5日ぶりに文明に触れる。洒落ている食堂。山にこもっていた身としては性に合わないが、とりあえずインスタ投稿した。さすがは生まれながらにして文明人である。ソフトクリームはうまい。

「ア゛アァ」
マグマはアブにかまれた。脇を必死に抑え苦悶の表情を浮かべている。苦悶。懊悩し、悶絶し、もがき、身をよじっている。僕と鼻水は笑っている。



あと2時間歩けばバスに乗れる。大阪行きのバスは空席があった。もはや歩きスマホができるようになってきた。それほど道が平坦である。僕はバスのチケットを予約し、マグマは右足の痛みに耐え、鼻水は鼻水が出なくなってきた。16時過ぎ、上高地バスターミナルに着く。登山口というより一般の観光地。槍ヶ岳登頂の達成感に比べると、どうも何も感じない。松本駅までのバスの切符を買い、いそいその乗り込む。

終章 松本の街
アルピコ交通バス。文明を一気に感じすぎて車酔いをしてしまう。駅で写真を撮ってもらった。街の人は冷たい。5日ぶりの風呂へ。菊の湯。おばちゃんはうって変わって優しい人。すっきりしてきなさいと。頭を洗い体を洗い。風呂上りまったり。
ネパール料理エベレストへ。カレーを食べ、松本バスターミナルへ。

僕は夜行バスの切符を買い、待合室のベンチに座っていた。鼻水はコンビニにミルクティーを忘れる。バスの入口には乗務員が一人。彼は僕に言った。
「4番のチャイナ」
「チャイナ?」
「4番のCさ。だから君はチャイナ」
4番のC席に座り、水を飲む。

あらゆるものは通り過ぎる。これだけ長い縦走なのに。終わってしまえば過去になるだけだ。忘れられないかこを積み上げていく。僕たちはそんな風にして山に登り続ける。

次はどこに登ろうか。
ハンサムおじさんがとってくれてた写真。twitterでいただきました。